第9回 ハリの家 ようこそ我が家へ
塩田邸(大鹿村)
ハリとは塩田さんのニックネームである。長年空き家で荒れていたこの邸を借り、自力で改造修復して暮らしている。
いらっしゃいませと食事処を思わせる玄関のれん。曲がった小枝を取っ手にした引き戸。ツルを巻いた電球。畳を板の間にかえた座敷。ほうきは格納場所が欲しくなるが、ハリにかかればインテリアである。また民家(いろりがあり、軒下には薪が積まれていた頃の家)の魅力も生かしている。柱は従来のものと新しく補強したものとをバーナーでこがして一体感をだしている。家は住む人を表すというがまさにハリのセンスと施工能力の光る家である。
ところで、昔の民家は構造からも客人をもてなすことに心を砕いたことがわかる。庭がよく見えて陽当たりの良い座敷は客人のため、「ハレ」のために空けておき、住人の日常生活「ケ」は北側の寒いところにあった。ハリは決して北側でくらしているわけではないが、客人をようこそと迎えてくれる外観。なかに入いっても客人の興味は尽きず心躍る空間になっていてさながら客人を待つ茶室のようである。ハリのしている改造は民家の精神そのものだろう。