第10回 モダンな家 惚れられる民家

宮沢邸(松川町上片桐)

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 宮沢邸は松川の北側に位置したジャンボ草履で有名な上片桐諏訪形地籍にあり、吉口の屋号で知られ、現在十九代当主である。母屋は総二階入母屋造りの邸である。

 宮沢邸の玄関は東向きで、この地方の竜西にある一般的な民家と同じ方角を向いている。しかし居間と座敷の位置、母屋と庭の配置が、正反対である。母屋の北側に表座敷があり、いろりのある居間を南側に設けている。従来の民家では北側の寒いところで日常生活をしていたのを暖かく快適にと考えられたモダンな配置である。これは現在、再生される民家のテーマのひとつでもあり、それを明治三十五年に創建しているのである。また座敷から見える庭がまた絶妙である。庭は北側にあるので基本的に母屋の日陰にはなるが、その日向と陰の関係が屋根の高さや形状と庭の広さや庭木の高さとを計算し尽くされた感じで絶妙な陰影を描いている。創建した十七代当主宮沢一郎氏の見識の深さと職人の技術に感服した。

 この頃、居間にあかりが欲しいと電気屋に頼むと「やっぱり蛍光灯じゃなくて電球でしょう」と昔の電球傘と布巻きの電線を捜してきて取り付けてくれた。また大正期に増設した便所を壊して新しく直したいと頼むと、職人さんは「いい作りだでもったいないに」と造りはそのままにして、簡易水洗にしてくれた。職人さんたちの邸の雰囲気を生かして行く感覚はプロの仕事だろう。プロは惚れ込むほどにいい仕事になる。またそれはなんといっても邸の魅力のなせる技だと思う。
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