第14回 土間を残す家 あいさつと床の高さ

鎮西邸 2(下條村 鎮西)

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 筆者はこの郷のすまいの取材で多くの旧家を訪ねさせていただいた。外観から更に興味がわけば、家の内部を見せてもらったり、お話を伺わなければならない。そんな時はどうしても玄関から「こんにちわ」とまずあいさつがいる。その時はたいがい、年輩の奥様が上がり端まで出ていらしてきちんと正座をしてから「いらっしゃいませ」と頭をさげてくれた。そしてご用件は?というような視線をくれる。見知らぬ筆者にもきちんと礼を尽くしてくれるくらいだから、長年の習慣が板に付いているという感じがどのお宅でもしていた。一方、今の若者は礼儀を知らないといわれて久しいが、その真偽はともかく、礼儀と家の構造、ことに床の高さのことを考えてみたい。

 テレビの討論会など見ていてもたいがい座ってやっている。人と話をするときにあまりにも目線に高低差があると話づらい。筆者はカメラマンとしてお客様を撮影させてもらうが、当然ながら大人とお子さまでは、カメラの高さを変える。視線を合わせることによる親近感は生理作用だと思う。犬でも立ったまま「よしよし」と手を出すといきなり咬まれたりするが、腰を落とし目線を合わせているとしっぽを振りだすことがよくある。

 さて家である。わが国はどうしても湿けやすく、そのために民家は床を高くする(60~70センチ)ことによりそれを緩和してきた経緯がある。一方現在新築される家では、コンクリートの布基礎などでこの湿気を退けているために、床は低く(20~30センチ)できている。民家の土間に立つお客様を迎えるのに正座をするとお客様よりも少し目線が下がった位置になり調度いいのである。それを現代の家で正座をすると目線が下がりすぎて話しづらいのでどうしても立ったまま迎えることになる。そうなれば自然と正座をしてあいさつをする機会が少なくなる。床高40センチほどの違いがあいさつの習慣をも変えていると筆者は思う。また同一のフロワーに立って客を迎える習慣の西洋で握手をすることも理解できる。

 写真は前回と同じ鎮西(ちんぜい)邸である。2年前の改装で食堂を作り、リビングと玄関は吹き抜けにして梁を強調した心地よい空間になっている。これだけの大改装をしたのに玄関の土間はなぜか手付かずである。土間の土には独特の質感がある。屋外の庭や畑の土とは違うし、まして石やコンクリートはいうに及ばない。ひとつ部屋を作ろうとしても十分な広さの土間を残したことを尋ねると「ここは昔の作業場で、自分も俵に米を入れるのを手伝わされたからね。土間は土間でいいでしょ」便利さや機能だけではなく、小さな記憶も家と住い手にとって大切なことと筆者は思う。
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